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未来を構想する「ビジョンデザイン」

最近、次世代のあるべき姿を描くデザインプロジェクトが拡大している。その内容も商品やサービスのあるべき姿を描くことに止まらず、未来社会のビジョンを描くプロジェクトが増えている。
デジタルテクノロジーは、暮らしや社会をこれまで以上に大きく変えようとしている。例えば、クルマの自動運転が本格化すれば、これまで考えてきた車のデザインに加え、移動時間の新たな活用方法もデザインテーマになるだろう。運転から開放されたドライバーに、新たな情報や様々な便益を提供するサービスを考えているスタートアップが既にいるかもしれない。自動運転になることでこれまでは考えられなかった新たなビジネスが生まれるのである。
まだ誰も見たことがない未来を構想し、可視化して、そこで提供されるサービスやモノを企画する。そして、利用空間やユーザインターラクションをデザイン・設計し、ビジネスまでも考える。人が中心の豊かな未来社会の実現に向け、未来を構想する「ビジョンデザイン」が本格的に必要な時代になってきた。

モノづくり、ことづくりとデザイン

われわれが生業とするデザインは、時代や環境、テクノロジー、ビジネスの変化とともに、求められる内容も大きく変わってきた。デジタルの時代を迎え、これまでで一番の変化を感じている。
モノのデザインが中心だった時代、モノの開発は非常に大きな投資と時間を必要とした。モノを造る「製造工程」が一度スタートすると後戻りは難しい、デザイン部門、設計・開発部門をはじめ、様々な組織があらゆる観点から細部まで検討を重ね、開発はウォーターフォール型で行われた。それには相応の人が必要で、ツリー型の組織が不可欠だった。
時代は変わってサービスビジネスが主流に。サービスの開発は、良いアイデアと強い志、そして、爆発的に発展を続けるICTを上手く活用すれば、短期間で価値あるサービスを実現することが可能に。そのデザインスタイルはデジタルテクノロジーを駆使してプロトタイプを創り、検証と改善を高速に繰り返しながら進めるアジャイル型になった。社会実装した後からでも、ユーザーの利用状況をつぶさに見て、顧客の意見を聴き、最適なサービスへと日々柔軟に改善する。これを行う組織はスリムになり、働き方も自由になった。

プロジェクトの「ハブ」としてのデザイナー

未来のありたい姿を描き、実現に必要なサービスやシステム、プロダクトや空間などを総合的に考え、それらのインターラクションやユーザーインターフェースをデザインするプロジェクトでは、デザイナーの役割が大きく拡大している。
デザイナーは、イラストやムービーで目指す姿を表現し、サービスの全体像を描いたり、システムを導入した前後の変化を可視化したり、実働するプロトタイプを作って、目指す体験を具体化し、検証を行い、素早くフィードバックを繰り返すアジャイル開発を牽引する。時には、顧客データの取得・分析のために、IoT関連の企業やデータアナリストなどとも協業しなければなるまい。描いたサービスを実現するまでには、さまざまな企業との協業を円滑に進めなければならない。
デザイナーは、強い思いを持ってプロジェクトを牽引する経営者を支え、プロジェクトを俯瞰し、プロジェクトに関わるステークホルダーの「ハブ」となり、ビジネスとして実現するまで継続的に伴走する。デザイン活動はビジョンづくりから社会実装まで続くのである。

一人ひとりに寄り添うデザイン

デジタルの時代になり、ビジネスの基本的な思考が、モノ中心の時代とは大きく変化している。
モノづくりは量産を前提にビジネスが考えられ、デザインはだれもが使えるモノを目指してユニバーサルデザインを志向してきた。しかし、「こと」を中心としたサービスビジネスでは、価値を享受する一人ひとりを大切にする。そのため、顧客が求める価値を、その人にとって最適なカタチで提供することが重要になる。
2020年、まさにデジタル・トランスフォーメーション(DX)が本格化している。家もクルマも家電も、あらゆるものがネットにつながり、最新のコンピューティング技術にさまざまな入出力技術が組み合わされ、一人ひとりのニーズに応えるサービスが始まっている。提供方法も利用者の特性や過去履歴、利用シーンに合わせて価値を提供できるようになってきた。
時代は、「Design for All」から、「Design for Each」にシフトしている。これからは、ビジネスも、デザインも、デジタルテクノロジーを駆使して、一人ひとりに寄り添うカタチを考えなければならない

人とテクノロジーの「役割分担」をデザイン

最近、AI技術の活用が本格化している。未来社会のビジョンを考える上で、AIやロボットと人間が共存する社会を如何に描くかが課題だと思っている。
人々は、サービスを享受するとき、その提供プロセスにも価値を求めるようになってきた。例えば、ショッピングを例にとると、ある人は他人に邪魔されることなくマイペースで買い物できることを望み、また別のある人は店員さんから商品の説明を聞き、コーディネートを相談しながら、ポスピタリティの高いショッピングを楽しみたいと思っている。商品を購入する行為は同じでも、顧客が求める購買スタイルは多様だ。
多様なサービス提供を実現するには、その提供プロセスにAIやロボットを導入することが不可欠になる。サービスを享受する人、提供する人、その回りで関係する人、誰にとっても心地よいエクスペリエンスを描くことが重要だ。人が担う役割とテクノロジーが担う役割の双方を考え、適切な役割分担をデザインしなければならない。そのためには、役割分担を考えるための倫理観を鍛え、社会コンセンサスの醸成までも考えなければならない。